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help リーダーに追加 RSS 紡がれる蒼い唄 Misson10-1 無言の帰国

<<   作成日時 : 2007/10/06 20:58   >>

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 「待っていたよ」


 ジュノのバストゥーク大使館に入ると、アルタイルが暗い面持ちで出迎えた。
 「なんと言っていいのか。いや、まず助けてもらったことに礼を言わねばならんな。ありがとうナジ」
 ナジは、その言葉のにただ頷いた。
 「君達を、正式にジュノ大使館員に任命する。もちろん、ウルとロウレイも」
 ナジは、その言葉に何の感動も覚えなかった。ウルは、もういないのだ。ロウレイは、まだ寝たきりである。
 あれから、三週間が過ぎようとしていた。その間、ロウレイは一度も目を覚ましていない。体に大きな傷はないらしく、何か特殊な力が働いているかもしれない、とモンブローは言っていた。しかし、世界一の名医と呼ばれるモンブローにでさえ、それが何なのかまではわからないらしい。
 ウルの遺体は、傷一つ、腐敗の一つもないように保存してある。せめて、見知らぬ土地ではなく、二人の冒険の始まりだったバストゥークで眠りにつかせてあげたかった。
 大使館を出ると、トモノが待っていた。
 「さあ、行こうか。飛空挺の準備はできている。もちろん、みんな一緒にだ」
 始まりは、二人だった。それが三人になり、四人になり。出会いと別れを繰り返し、ここまで来た。しかし、ウルとはもう会えないのだ。その事実だけが、ナジに重くのしかかった。
 ジュノ港から飛空挺に乗り込むと、広い一室に案内された。特別に用意された部屋らしく、本来ならば冒険者が入れるような場所ではない。これが大使館からのせめてもの心づくしなのだろう。
 部屋の奥、窓の近くに豪奢な棺と、白いベッド。棺にはウルが、ベッドにはロウレイが横たわっている。ロウレイは、症状の悪化も見られず、治療の方法も無いと言うことで、本国に送還という処置が施されたらしい。
 まもなく飛空挺が離水した。思ったよりも衝撃は無かった。そして、いつものような感動も無かった。ウルがいれば、隣でおおはしゃぎしていただろう。
 トモノは、沈痛な面持ちで椅子に座っている。ナジは、その表情を見て胸を貫かれたような気持ちになった。
 おそらく、トモノは自分の責任を感じているのだろう。あの時、ウルとナジを止めることができなかった自分に、嫌悪感すら抱いているかもしれない。本当は責任など微塵もないのだが、それがトモノの性格だった。
 その思いは、ナジも一緒だった。
 あの時ウルを止めることができたなら。せめて、トモノに一言相談していたら。もしかしたら、こんな結果にはならなかったのかもしれない。

 ナジは、甲板に出て風を浴びた。すでに太陽は沈み、あたりは月明かりで照らされている。
 不意に、涙がこぼれ落ちた。特に、何かを感じたわけではない。これまで何度も涙を流した。あるときは、二人の冒険を思い出して。あるときは楽しいひと時を思い出して。
 しかしいつの日か、ウルの事を思い出しても涙を流さなくなった。心が麻痺してしまったのではない。いつまでも悲しんでいるわけにはいかない、と思ったのだ。ウルが生きていたら、あの眩しいほどの笑顔で、必ずそう言ったはずだ。
 「ウル……」
 ナジは、その名を呼んでみた。返事は、もちろんない。
 空を見上げた。月は、ただ眩しく輝くだけだった。


 バストゥーク港に飛空挺が着水したのは、翌日の昼だった。
 着岸すると、すぐに数人が駆けつけ、ベッドと棺を慎重に運び出した。トモノが手配をしたらしく、ベッドはバストゥークの病院に、棺はナジと同じ宿屋に運ばれるらしい。棺について、その後のことは決まっておらず、ナジの一存ですべて決めて良いらしい。
 バストゥークに入ると、まず大統領府に足を向けた。今まであったことを説明するのと(仮にも大使の命を救った者の責務として)、冒険者としての登録を抹消するためである。ウルと共に始めた冒険だった。そのウルがいないのならば、ナジを冒険者として引き止めるものは何もない。
 大統領府に着くと、すぐに異変を感じた。各国の大使館は封鎖され、大統領府には、おびただしい数の兵士で溢れかえっているのだ。
 ナジは、その混乱を見て引き返そうと思った。ヒュームやガルカでごった返している場所に入っていけば、タルタルのナジにとっては危険極まりないのだ。しかし、その行動を一人の人物が引き止めた。
 「ナジ、ナジ!」
 一人の人物が手を振っている。その姿をみとめた周囲の兵士達は、ナジとその人物の間から退き、人の壁に挟まれた道を作った。
 「ナジさん?」
 ミスリス銃士隊の、ナジだった。大きな手振りでナジを呼んでいる。視線が、いっせいにナジの方を向いた。その視線は、有無を言わさずナジを銃士隊のナジの元へと押し出した。


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